

BECK(ベック)は常に変化し続けるアーティストである。
フォーク、ロック、ヒップホップ、ファンク、サイケ、ポップ──そのすべてを混ぜ合わせ、時代とともに音楽性をアップデートしてきた。
まぁ確かにそうかな。


そして2019年に発表されたアルバム『Hyperspace(ハイパースペース)』。
これは、BECKの中でももっとも内省的で、もっとも“浮遊感”に満ちた作品である。
確かに優しい感じの曲は多いかな?


過去の作品群が「音で遊ぶ」「スタイルを変える」ことにフォーカスしていたのに対し、『Hyperspace』はより“個人的”で、“心の揺らぎ”が音に染み込んだアルバムである。
それでは今回はそんな本作について語ってみたいと思うのじゃ!
※この記事はドラねこが実際に自腹で買った製品をレビューする記事です。
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懐かしのレトロ感満載?でもそれがいい!

「ハイパースペース」は第61回グラミー賞で「最優秀オルタナティヴアルバム賞」と「最優秀アルバム技術賞(ノンクラシカル部門)」の2つを受賞し、『カラーズ』以来となる通算14作目のオリジナルアルバム。
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SF的なアルバム・タイトルは1979年アタリ製のビデオ・ゲーム『アステロイド』からインスパイアされたという。

これが「アステロイド」じゃ。
⋯なんか今見るとスゲえゲームだな。

良いところ
では以下に「ハイパースペース」の良いところを挙げていこう!
ファレルとの化学反応が新境地を拓いた
曲の後半では懐かしいレトロゲームのピコピコ音がサンプリングされていて、なんかファミコンサウンドみたいで懐かしいw
その他にも本作は数々の豪華ゲストとともに共作した楽曲も多く、中でも11曲中7曲がファレル・ウィリアムスとの共作/共同プロデュースと、ほぼファレルとのコラボ・アルバムと言っていい制作態勢となっている。
「ふぁれる・うぃりあむず」って誰でしゅか?


これじゃ。
ああ、これか。聞いたことあるぜ。


たのしいきょくでしゅ!
『Hyperspace』の最大の特徴は、Pharrell Williams(ファレル・ウィリアムス)とのコラボレーションにある。
収録曲の多くで彼が共同プロデュースを務め、BECKのサウンドに柔らかさと宇宙的広がりを与えている。
特に「Saw Lightning」や「Uneventful Days」はファレルらしいミニマルでスカスカなのに中毒性のあるリズムが光る。
それにBECKの淡々としたボーカルが重なることで、これまでにないスムースな音像が生まれた。
この異色タッグが、“ハイパースペース”という名の音楽的次元を成立させている。
内省的な歌詞が今のBECKを映し出している
アルバムの4曲目に入っている「Die Waiting」なんかもいいw
若い頃のBECKは、言葉遊びと風刺を散りばめた“クールな観察者”だった。
だが『Hyperspace』では、孤独、不安、居場所のなさといったテーマが露わになっている。こうしたところはさすがBECKと言ったところ。
中でも個人的に聞き所はコールドプレイのクリス・マーティンが歌っている「Stratosphere(ストラトスフィア)」という曲。
「Stratosphere」では「宇宙の中で自分を見失うような感覚」が描かれ、「Chemical」では感情のブレがそのまま音になっている。
これは“誰かに向けた音楽”というより、“自分と向き合う音楽”であり、まさにBECKの心の現在地を映す鏡である。
何回も聞き返しているとしっくり来る名曲が多いのが今作の特徴になっている。
録音もキレイなのでとても聞きやすく、持ち味の透明感は今作も健在で、やっぱりBECKっていいなという安心感を今作もリスナーに与えてくれる良作である。
聴き流せるのに、聴き込むと深い
本作の音は全体的にやわらかく、控えめである。
前作『Colors』が派手なポップロックだったのに対し、『Hyperspace』は空気のように存在しながら、ふとした瞬間に刺さる。
通勤中や夜のドライブ、眠る前にも合う。だが、よく聴くとベースラインの粘り、リズムのズレ、音の配置にBECKならではの緻密さがある。
“軽くて深い”──この矛盾を成立させているのがBECKの凄みである。
前作のパンチの聞いたEDMの音楽が無理やり踊らせるノリのいい楽曲だとすると、こちらはスローテンポでダンスフロアでゆったりと踊らせるような類の音楽。
人によっては奇妙奇怪であまり受け付けないかもしれないが、それでも時間を置いてまた聞き出すと、いろんな音がたくさん混ざり合ってかなり複雑な音作りをしているのを感じ取れるはずだ。
アルバムジャケットに日本車が!

さて、話はアルバムジャケットの方に移ろう。
印象的なのはやっぱりそのジャケ写に写っている謎の赤い車。
これは80年代に人気を誇った日本車「トヨタ・セリカ」という旧車で、なんとなく昭和感が漂っているw
そのほかにもレトロなカタカナロゴが登場する“日本オリエンテッド”なジャケットアートワークはなんとも昭和な既視感が半端ないのだが、これはBECKなりの日本に対するリスペクト?なのか単に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の日本にすり寄っているのか謎である。

わしは最初これをみた時「ハチロク」かと思ったのじゃ。
おお、一瞬「頭文字D」かと思ったぜ。


よく見るとハチロクではないんじゃよ。
セリカなんて初めてきいたぞ?

さらに詳しく

という車なんだって。
なんとなくわかったような、わからないような⋯⋯

とにかくこのアルバムは随所に日本のリスナーを楽しませるアートワークや、懐かしのレトロ音を現代のサンプリング技術とEDMのメロディーなどで現代風にアレンジした楽曲が数多く存在していて、往来のBECKファンを楽しませる仕組みが満載の良作であることは間違いない。
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悪いところ
では以下に悪い点を挙げていこう。
全体的に地味で印象が薄い曲も多い
BECKらしさを期待して聴くと「思ったより地味」と感じる人は多いだろう。
派手な展開やキャッチーなフックが少なく、初聴で「これはヤバい」となる曲は少なく何回か聞き返してやっと曲の良さがわかる。そんな楽曲が多めである。
そのため、BECK初心者や『Odelay』『Midnite Vultures』のようなエネルギッシュな作品が好きな人には物足りなさが残る一作になっているだろう。
統一感があるようで、退屈にもなりやすい
アルバムとしての“ムード”は一貫しているが、それが良くも悪くも“単調”に感じられる瞬間がある。
曲同士のテンション差が少なく、中盤〜後半にかけて聴きどころがぼやけてしまう。
リスナーによっては“途中で意識が離れる”という声も少なくない。
BECKらしい“ジャンルレス”感はやや後退か?
本作はあくまでファレルとのコラボ作品という側面が強く、「ジャンルを壊すBECK」という期待に対しては抑制的である。
あの、“ジャンルを食い散らかすようなカオス感”が好きなファンにとっては、物足りなく感じる部分もある。
BECKの多面性のひとつとして受け止められるかが、本作の評価の分かれ目になっているかもしれない。

わしとしては初見では「なんじゃこりゃ?」と戸惑うことが多かったけど、聞き重ねていくと、これすっごくいいじゃんに変わっていく、そんなスルメみたいなアルバムだったのじゃ。
まとめ
記事のまとめ
- 日常に疲れた夜、音に包まれて一人になりたい人 → 『Hyperspace』は音の毛布。そっと心を包んでくれる。
- ポップすぎず、エッジすぎない“中間の音”を探している人 → サウンドの緩急とバランス感覚が絶妙。
- BECKの新しい一面を受け入れられる“耳の柔らかい人”→ これまでのBECKとは違う。でも確かに“BECK”だ。
『Hyperspace』は、BECKにしては静かで、抑制されていて、派手さがない。
だが、それが良い。だからこそ響く。これは「音で殴ってくるアルバム」ではなく、「耳元でそっと囁いてくるアルバム」だ。派手な展開も、衝撃的なフックもない。だが繰り返し聴くほど、自分の心のどこかに静かに染み込んでくる。
“音楽に癒し”を求める人、“浮遊感”を味わいたい人には、まさにぴったりの一作だろう。

『Hyperspace』は、派手ではないが、往年のファンにはいつも誠実。
BECKが自分自身と向き合い、音にして差し出した“音の宇宙空間”──そこに身を委ねられる人こそが、このアルバムの真価を知ることになるのじゃ!