
ちわわ、ちわ~!おいさんだよ!
キミはポール・オースターは好きかい?
またポール・オースターかよ?
お前は『幽霊たち』って読んだことあるだろ?


あるぞ!ポール・オースターの作品じゃな。探偵ブルーがブラックを監視する話じゃ。
でも、やっぱりポール・オースターなだけあって、ただの探偵小説じゃないんだろ?


そうじゃ。
アイデンティティや現実と虚構の境界を問う、哲学的な内容なのじゃ。
登場人物の名前が色で統一されてるのも、何か意味があるのか?

\ ココがポイント!/

『幽霊たち』は、ポール・オースターによる探偵小説の形式を借りた哲学的な作品なのじゃ!!
主人公ブルーがブラックを監視する過程で、自己の存在や現実と虚構の境界について深く考えさせられる。登場人物の名前が色で統一されている点も、物語の抽象性を高めており、読者に新たな視点を提供するだろう。
幽霊たち
今回紹介するのはポール・オースターが描く「ニュヨーク3部作」の二作目。邦訳はおなじみの柴田元幸さん。
柴田元幸(しばた もとゆき、1954年7月11日- )は、アメリカ文学研究者、翻訳家、エッセイスト、小説家。東京大学大学院人文社会系研究科教授。現在、現代文芸論研究室に所属。東京都大田区出身。
ポール・オースター、チャールズ・ブコウスキー、スティーヴ・エリクソン、スティーヴン・ミルハウザー、リチャード・パワーズなど現代アメリカ文学、特にポストモダン文学の翻訳を数多く行っている。彼の翻訳した本は注目を集めるため、レベッカ・ブラウンなどは本国アメリカよりも日本での方が人気が高い。
自身も文学や翻訳を題材にしたエッセイを執筆しており、『生半可な学者』では講談社エッセイ賞を受賞。
小説家の村上春樹が、1986年にジョン・アーヴィングの『熊を放つ』を翻訳する際に、柴田、武藤康史、畑中佳樹、斎藤英治、上岡伸雄でチームを組んでバックアップしたことをきっかけに、村上との親交が篤い。村上との共著に『翻訳夜話』『翻訳夜話2 -サリンジャー戦記-』がある。
さて、この作品は前回の『シティ・オヴ・グラス』同様、探偵物語になっている。
しかし、例のごとくポール・オースターの書く探偵モノは普通の推理小説のようにはなっていない。こちらはれっきとした純文学である。
この物語は一様に説明するのが難しい。だがなんとかこの物語の概略を綴ってみよう。
ありきたりのミステリーではない探偵モノ
物語はまず登場人物たちの名前がブルー・ブラック・ホワイト・グリーン・ブラウンと色の名前のみで記されているのだ。
どこかこの色を元にした登場人物たちには不思議な感じがする。
それはこの登場人物たちが名前の無い存在、大都会で生きているのに誰にも生産的な活動をしていない、すなわち存在しない「幽霊」のような印象を読者に与える。
本作はそうした「生きているのか・死んでいるのか?」「存在しているのか・してないのか?」よくわからない男たちを軸に展開するミステリーである。
とまぁ、このようになんとも掴みどころのないストーリーなのだが、
それでいてグイグイと引き込まれていくパワーのようなものをこの小説には感じる
この不思議な魅力は何なのだろう?
別にこの本には本当に幽霊が出てくるわけではない。
そうしたスティーブン・キングばりのホラー小説とは趣きを異にしている。
しかし、この小説にはどこかこの世のものとは思えない感じを、終始受けてしまうのだ。この感覚、このぼんやり感、まさに文章そのものが幽霊と言ってもよい。
まさに知らずと文章の中に「幽霊たち」を追い求めてしまうミステリアスな話の展開。
一読しただけではなかなか読み解けないものなのかも知れないが、不思議な魅力を備えて本であることは間違いない。
ありきたりのミステリーに飽き、たまには違うモノを読んでみたいと思っている方は本書に挑戦してみてはいかがだろうか?
きっと未知の読書体験ができること請け合いである。
良いところ
あらすじ
探偵のブルーは、ホワイトからブラックという男の監視を依頼される。ブルーはブラックの向かいの部屋から彼を観察し続けるが、ブラックは日々執筆や読書を繰り返すだけで、特に変わった行動をとらない。次第にブルーは、ブラックの行動や存在に対する疑念を抱き始め、自身のアイデンティティや現実感をも揺るがされていく。
では以下に良いところを挙げていこう!
概念を揺さぶる独創的なプロット
『幽霊たち』の最も優れた点は従来の探偵小説の定石を徹底的に解体し、再構築している点だろう。
通常、探偵小説は謎の提示、探偵による調査、そして真相の解明という流れを辿るが、本作は謎が深まるばかりで、明確な解決は提示されない。むしろ探偵であるブルーが監視対象であるブラックと同化していく過程、そして監視行為そのものが目的化し、最終的に虚無へと帰結する様を描く。この「監視する側とされる側の境界の溶解」というプロットは、読者に「見るとは見られるとは何か」「存在とは何か」という根源的な問いを突きつけ、文学における探偵小説の可能性を大きく広げたと言える。
研ぎ澄まされたシンプルかつ象徴的な表現
登場人物の名前を「ブルー」「ホワイト」「ブラック」「ブラウン」といった色彩で統一する手法は、彼らが特定の個人ではなく、人間存在の普遍的な側面を象徴していることを示唆している。
また物語全体を通して、装飾的な描写を排し、簡潔で研ぎ澄まされた文章が続く。このミニマルな表現は、登場人物たちの感情の起伏や行動に焦点を当てすぎず、物語の根底に流れる哲学的なテーマや、登場人物たちの心理状態を際立たせる効果がある。この研ぎ澄まされた文体こそが、本作の持つ乾いた孤独感や、不穏な雰囲気を際立たせている。
読者に「参加」を促す多層的な構造
本作はただ物語を追うだけでなく、読者自身が物語の構築に「参加」することを促す構造を持っている。
作中には監視日誌のような断片的な描写や、語り手のブラウンによる曖昧な介入、そして最後の衝撃的な展開が含まれる。これらの要素は、読者に能動的に「真実とは何か」「この物語は何を意味するのか」を考えさせる。明確な結論が提示されないことで、読者は物語を読み終えた後も、その余韻と問いかけから逃れられない。まるで読者自身も監視者となり、物語の登場人物と共に迷宮を彷徨うような感覚に陥るだろう。
気になった方はこちらからどうぞ
悪いところ
では以下に悪いところ挙げていこう。
難解なテーマと構成
哲学的なテーマや抽象的な構成が多く、読者によっては理解しづらい部分がある。
登場人物の心理描写の不足
ブルーの内面描写がやや不足しており、彼の行動や動機が読者にとって理解しづらい部分がある。
結末の曖昧さ
物語の結末が明確に示されず、多くの謎が残されたままとなる。このオープンエンドな終わり方は、読者によっては不満を感じる要因となる。
そこらへんは好みだろうけど、気にならないヤツは気にならないだろうな。

まとめ
こんな人におすすめ!
- 哲学的なテーマやポストモダン文学に興味がある人
- 探偵小説の形式を借りた実験的な作品を楽しみたい人
- 自己のアイデンティティや現実と虚構の境界について考えたい人
ポール・オースターの『幽霊たち』は、一見するとシンプルな設定の探偵小説だが、その実態は「監視」という行為を通して「存在」の根源に迫る、極めて思索的な作品である。主人公ブルーが監視対象のブラックと同化していく過程は、主体と客体、現実と虚構の境界を曖昧にし、読者に奇妙な孤独感と虚無感を突きつける。登場人物たちの感情描写も控えめであるため、万人受けする作品ではないだろう。
しかし、その研ぎ澄まされた文体と象徴的な人物描写は、哲学的なテーマを際立たせ、読者に能動的な思考を促す。監視の無限ループ、そして「見ること」「見られること」の意味を深く掘り下げることで、読者は自身の日常における無意識の行為や、存在そのものについて考えさせられるはずだ。
文学の枠を超え読者の精神に深く刻み込まれる一冊である。

この作品を読むことで、自己と現実の境界について深く考えさせられるのじゃ!