
ちわわ、ちわ~!おいさんだよ!
キミは岳飛は好きかい?
岳飛って中国の英雄なんだろ?
そんなもん、難しそうで読む気しねーわ。


バカモノォ!
じゃが北方謙三の筆にかかれば話は別じゃろう!
え?でもよ、
歴史小説ってだいたい名前覚えられなくて挫折するんだけど…


心配いらん。
巻頭に登場人物名鑑があるし、みな魅力的なキャラクターなので読んでるだけで胸に響くのじゃ!
マジかよ。
それならちょっと読んでみるか⋯

\ ココがポイント!/

『岳飛伝』は、北方謙三による全17巻の歴史大河小説である。舞台は南宋時代の中国なのじゃ!!
舞台は南宋時代の中国。
武人・岳飛を中心に、忠義と裏切り、戦と友情、国と民を巡る壮大なドラマが展開される。
本作の真価は、史実をなぞるだけではない。北方流の大胆な人物解釈と、魂を削るような会話、そして濃密な人間関係描写にこそある。岳飛はただの英雄ではない。怒り、迷い、悩みながらも信念を貫こうとする等身大の人物として描かれており、読者の心に食い込む。
また、本作は単なる一代記に留まらず、梁山泊の志士たちを引き継ぐ「水滸伝」「楊令伝」三部作の完結編としての側面も強い。
歴史小説という枠を超え、「どう生きるか」を問う骨太の文学である。
本作を読めば、きっと自分の信じる「義」について考え直すことになるだろう。
気がつけば10年かかりましたw
ようやく読み終わった。
気がつけば10年である。
最初に北方文学に出会ったのは、アレはまだわしが大学生の頃だった。
大学の講義でわからないことがあったわしは近くの図書館に連日通いつめて飽くことなく図書館の本棚にある本を眺めていた。
そこで飛び込んできたのが、北方水滸伝。
友人にゲームを借りて幻想水滸伝にハマっていたわしはいさかさ興味をひかれて北方謙三の水滸伝を手に取った。これは以前もお伝えしたことと思う。
何気なく手にとって読んでみて興味をそそられ、とりあえず借りて読んでみてつまらなかったらすぐに返そうというくらいの軽い気持ちで手にとってみたら、その日の内にドハマリしてしまった。
それからというもの、わしに人生に幾度となく大きな試練が降り掛かってきた。
大学中退、就活失敗、ブラック企業でアルバイト、親友の死、一人旅とこの10年を振り返ってみてもよくもこれだけというキツイ目にあってきたが、それでも北方水滸伝はいつもわしのそばにいた。
九紋竜に魅せられて
気がついてみれば水滸伝も終わり、楊令伝に差し掛かる前に「楊家将」を読み、続編の「血涙」も読破した後は楊令伝に取り組み、楊令の壮絶な戦いの後は主人公はあの岳飛に変わった。
それからというもの、もうだいぶ水滸伝の頃からの登場人物も1人消え二人消え、あの呉用や衛青、武松や李俊も物語からその姿を消した。
そしてこの「岳飛伝 十七 星斗の章」ではあの九紋竜・史進ですらウジュとの壮絶な戦いのあと、梁山泊から姿を消すことになる。
史進。梁山泊遊撃隊総隊長の本物の男よ。
わしはオマエが大好きだった。そんなオマエがいつまでも物語の中で最後まで生き続け、懸命に戦い、傷つきながらも男として最大限に生きる様は、読んでいて最後まで清々しいものであった。
そしてそんな史進も、最後にはわしが大好きな子午山に向かったのだ。
さらば九紋竜・安らかに眠れ。
そして漢たちよ、永遠なれ。
現代では珍しい漢たちの物語
北方謙三の水滸伝は、現代では珍しいどこまでも漢臭い、漢の文学だ。
これほどまでに長く、そして漢のために書かれた物語は他に類を見ないだろう。
出て来る漢たちはどこまでもデカく、強く、潔い好漢豪傑ばかりw
だがそれでいて原点の水滸伝のようなファンタジー色はまるでなく、文体はどこまでも現代風でリアリズムを感じながら読むことができる。
文体は一見シンプルで平坦だが行間には様々な漢たちの葛藤や血の滲むような苦しみが凝縮されている。
そう、この物語に出てくる漢たちは、間違いなく本の向こう側に熱い血潮をたぎらせながら見事に生きているのだ。
一分の女子たちにはこうした漢たちはあまりにもアクが強く、受け入れられない者たちばかりかもしれないが、現代ではカッコイイ男=ジャニーズ系細マッチョ的な価値観を大いに揺さぶってくれるw
そうしてナヨッとした何処か草食系の頼りない女みたいな男たちを好きな女子共に飽きて来ている人たちも、一読してみたらその価値観が一変してしまうかもしれない。
それほどまでに北方謙三の小説に登場する男たちはどれも魅力的で力強い真の強い男を描き出してくれている。
そんな漢たちの戦いを観ていると、本当に気持ちが良い。
わしも水滸伝に出てくる好漢たちのように戦えるか?と言われればもちろん無理なのだが、それでもどこか自分を内側から揺さぶり「強く」してくれるような気がしてならないのだ。
強くなれ!
それは北方文学に漂うハードボイルド小説の通低音であるからだ。
最後の一章を読み終えると、そんな好漢たちとの出会いもこれで最後なのかと、なんだか少し寂しくなった。
でもわしの心の中には梁山泊で生きた熱き男たちが、今でも力強く生き残っている。
物語は終わっても、感動は死なない。
やるだけやって死にたい。…でも何か食いたい。
わしもそんな男たちのつぶやきを胸にこれからも力強く生きていこう……と誓って本を閉じたのであった。
良いところ
あらすじ
物語は宋の将軍・岳飛(がくひ)が、乱れた時代の中で義と忠を貫きながら戦い続ける姿を描く。
敵は外から攻める金国(女真族)だけではない。腐敗した宋の朝廷、自軍内の思惑、そして人間の弱さそのものが立ちはだかる。
岳飛は、かつて「水滸伝」で登場した梁山泊の残党たちと深い関わりを持ちながら、自らの道を模索する。
特筆すべきは、岳飛だけでなく、彼を取り巻く人物たちの存在である。
裏切り者として名高い秦檜(しんかい)、無骨な将軍たち、忠義に生きる文人、そして民草の声。これらが複雑に交錯し、壮大な叙事詩を形づくる。
全体を通して流れるテーマは「義とは何か」「国家とは誰のものか」「人はなぜ戦うのか」。
これらの問いを読者に突きつけながら、物語はやがて避けられぬ悲劇へと向かってゆく。
では以下に良いところを挙げていこう!
歴史とフィクションの融合が絶妙
北方謙三は史実を大胆に解釈しながらも、根幹となる流れを壊さないバランス感覚を持っている。岳飛という実在の英雄を、単なる伝説や偶像にせず、血の通った男として描き出す筆致は見事。読者は「もし自分がこの時代にいたなら」と考えずにはいられない。
セリフの重みが尋常ではない
北方作品に共通する魅力の一つが「言葉の力」である。登場人物たちのセリフは短く、鋭く、胸を突く。「生きている者が志を失えば、死者は無念を晴らせぬ」など、作品全体に響く名言が散りばめられており、何度も読み返したくなる。
群像劇としての完成度の高さ
『岳飛伝』は岳飛一人の物語ではない。
数十人に及ぶ脇役たちがそれぞれの信念とドラマを抱え、交錯する。梁山泊の名残を持つ者たちがどう生きたか、宋という国家にどう関わったかが描かれ、スケール感が桁違いである。読み進めるごとに、彼らの「義」の形が浮き彫りになっていく。
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悪いところ
では以下に悪いところ挙げていこう。
登場人物が多すぎて混乱しやすい
序盤から中盤にかけて登場人物の数が非常に多く、一度読むだけでは人間関係を完全に把握するのが難しい。人物表やメモを取りながら読むことが推奨される。
歴史的背景の予備知識がある程度必要
南宋時代というややマイナーな時代背景のため、中国史に不慣れな読者には理解しにくい部分もある。簡単な時代背景や地図を事前に知っておくと、物語に深く入り込める。
文体に硬派なクセがある
北方作品特有の簡潔かつ硬派な文体は最初のうちは読みにくさを感じる読者もいるだろう。慣れてくるとそのリズムに魅了されるが、好みは分かれる。
そこらへんは好みだろうけど、気にならないヤツは気にならないだろうな。

まとめ
こんな人におすすめ!
- 歴史小説や中国史に関心がある人
- 「義」や「信念」にテーマを求める人
- 群像劇や骨太なドラマを好む人
『岳飛伝』は、ただの歴史小説ではない。
これは信じるものを守り抜こうとする男たちの物語であり、岳飛という人物の存在感は圧倒的でありながら、物語は彼だけにとどまらず、無数の登場人物が「志」に生きる様が描かれている。読み進めるほどに心が締めつけられ、ページをめくる手が止まらなくなる。
北方謙三が描く「漢」たちの物語は、現代においても色あせない。むしろ今こそ心に刻むべきものであろう。
本作は歴史を知るためでなく、「漢の生き方」を学ぶために読むべき書である!

剣を振るうよりも己の信念を守ることのほうが難しい時代にこそ、『岳飛伝』を読む価値があるのじゃ。読めば胸が熱くなり、生き方を問い直すことになるじゃろう。