
ちわわ、ちわ~!おいさんだよ!
キミはカズオ・イシグロは好きかい?
『夜想曲集』って名前からしてムすごいなw


本書は夜と音楽が心の奥を揺さぶるという意味かのう?
カズオ・イシグロにしては軽いんじゃね?


いや、軽やかだが重厚。“未完の人生”を描く短章が五つ繋がっておるかのようじゃ。
ふ~ん、そんなもんかな?

\ ココがポイント!/

『夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』は、カズオ・イシグロが初めて試みた音楽・未完・回顧というテーマを旋律のように繋いだ珠玉のストーリーサイクルなのじゃ!!
舞台はヴェネチアやロンドン、ロサンゼルスなど夕暮れ時の異国情緒に満ち、すべての語り手が“未完成な人生”の哀感と未練を抱える音楽家たちである 。一部にはスラップスティック要素も交え、悲哀と滑稽さが響き合う構成が斬新だ。読後にはノクターン=夜想曲が奏でる“未完の調律”が心に残るだろう。長編ファンにも短編初心者にも響く静謐かつ印象的な一冊である。
夜想曲集
いやぁ、びっくりした。
先日、日本生まれのイギリスで活躍している作家カズオ・イシグロが選ばれた。
去年あたり綾瀬はるか主演で「わたしを離さないで」がドラマ化していたから、カズオ・イシグロも日本でそれなりの認知度を得たんだろうな……と思ったらいきなりノーベル賞ですよw
これでまたカズオ・イシグロ氏に注目されるのは間違いないだろう。
たぶんメディアなんかではカズオ・イシグロの代表作として「日の名残り」とか、去年ドラマ化した「わたしを離さないで」などを取り上げているんだろうけど、このブログではそんなベタな作品を取り上げない。
カズオ・イシグロってスゴそうだけど何を読んだらいいかわからないというキミに「夜想曲集」なんか読んでみるのはどうだい?
この「夜想曲集」は、音楽をモチーフに5つの物語が進んでいく。
それにしてもなぜわしがこの作品をわざわざ選んだか?
それはカズオ・イシグロの小説を読むにはこの短編集が一番入りやすいと思ったから。
そう、この本は短編集である。
例えばデビュー作の「日の名残り」は読むには、いささか知性というか教養がいる。
というのもこの本は第二次世界大戦後の数年間が舞台で、失脚した主人に仕えていた執事スティーブンスが車で旅をする、という物語なのだが、作中では大戦当時のイギリスとドイツの様子や政治状況についてある程度の知識を持っていないと話の内容がイマイチわからず、物語の中に入り込むことができない。
「わたしを離さないで」などは、ちょっと作品全体が淡く、薄ぼんやりしているというか、かなり主人公たちの生まれの秘密が特殊で、中盤くらいまで意図的に隠されているので、あまり本を読み慣れていない方は意味がわからなくて途中で投げ出してしまうかもしれない。
そこで今回、わしは誰でも読める万人受けする作品としてこの「夜想曲集」をおすすめしたい。
何より短編だというのがとっつきやすいし、短いからと言ってカズオ・イシグロ氏の持ち味であるムダのない美しい文体が損なわれているわけではない。
カズオ・イシグロってどんな小説を書く人なの?という人にも受け入れやすい本として、わしは本書をおすすめする。
異端のイシグロ作品?
ただちょっと言っておきたいのは、この本はカズオ・イシグロ氏が書く作品のイメージからは少し離れているかもしれない、という点だ。
というのも、カズオ・イシグロといえば、透明な文章を書く人というか、自身もインタビューなどで非常にレイモンド・チャンドラーの文体に感銘を受けたと公言していて、ハードボイルドとまでは言わないがしっかりとムダを削ぎ落とした文章を書き綴る人である。
それ故に美しい文体に仕上がっているのだが、読む人によっては無味乾燥でなんともとっつきにくい「冷淡で・カッコつてけている」という感想をお持ちになる読者もいるようだ。
その点この「夜想曲集」はそんなカズオ・イシグロのイメージに反して、コミカルというか、けっこうユーモラスな視点で様々な登場人物が色んな音楽に関する物語を紡ぎだしていくので非常に読みやすい。
自信も若い頃ミュージシャンを目指し、音楽で生きていくことを夢見ていた青年だったのだが、挫折して小説家になる決意をしたという特殊な経歴の持ち主だけに、そうした音楽に対する思いも人一倍強いようで、この短編には5つの物語一つ一つにそうした作者の音楽に対する熱い思いが感じ取れるような気がする。
カズオ・イシグロの作品でもっと読んでほしい作品はコレ以外にも色々あるのだが、今回一冊を選ぶとしたらわしはこの「夜想曲集」を選んでみた。
秋の夜長にはピッタリの一冊である。
良いところ
あらすじ
本書は音楽と黄昏を舞台にした5篇の短章で構成されるストーリーサイクルである。
第1話「老歌手」では、サンマルコ広場で衰えたアメリカ歌手と、夢破れたポーランド人ギタリストの出会いが描かれる。第2話「降っても晴れても」は、ロンドン在住教師が元大学仲間と邂逅し、ほろ苦い再会劇を繰り広げる。第3章「Malvern Hills」は理想と現実の狭間で揺れる若きギタリストの心理を描き。第4話「夜想曲」は整形を受けたサックス奏者と離婚女性の夜のドタバタを描き出す。最終章「Cellists」では、チェリストと自称天才女性奏者の幻想と失望が交錯する。
すべての話が“選び取られなかった人生”の後悔と郷愁を浮かび上がらせ、全体としてはノクターンのように調和した短編集となっている。
では以下に良いところを挙げていこう!
音楽と夕暮れが織りなす“静謐な叙情”
ヴェネチアの広場、ロンドンの住宅街、ロサンゼルスのホテル⋯全篇に漂う夕暮れの空気と音楽の情景描写は、まるでノクターンの旋律そのもの。イシグロが音楽家としての自身を反映させた筆致は、静かな中にもじんわりと胸を締めつける余韻がある。
短篇なのに厚みを感じさせる“人生の断片”
各話の語り手(ギタリスト、歌手、サックス奏者、チェリスト)はいずれも「未完成な自分」を抱え、人知れず後悔に苛まれている。しかしイシグロの筆はその「不完全」こそを光として描き出し、静かな共感と切なさを呼び起こす構成力を見せている。
喜劇と悲哀が響き合うバランス設計
短編集にはユーモアやスリルもふんだんにちりばめられている。特に第4章「夜想曲」の夜の騒動は滑稽でスラップスティックだが、根底には別れと再生への哀しみがある。悲しみだけで終わらず、曖昧な悟りと希望も感じさせる余白が見事だ。
気になった方はこちらからどうぞ
悪いところ
では以下に悪いところ挙げていこう。
登場人物に印象が薄いという声も
5編すべて一人称語りだが語り手の声が似通っており、キャラクターの識別が難しいとの評価がある。深みはあるが記憶に残る個性には弱さがあると感じる読者もいる。
印象に残りにくい「雰囲気重視」な構成
静謐な雰囲気を重視したため具体的ストーリーの展開は淡く、余韻重視ゆえ「すぐ忘れそう」「感動は薄い」と感じる向きもある。
スタイルの揺らぎが気になる読者も
スラップスティック喜劇と静かな哀しみが混在する構成は斬新だが、好みによってはトーンが一定せず没入感が途切れることもあるとの指摘がある。
そこらへんは好みだろうけど、気にならないヤツは気にならないだろうな。

まとめ
こんな人におすすめ!
- イシグロの長編ファンで、新たな作風を探している人
- 音楽と人生の交差する静かな叙情を味わいたい読書家
- 短篇で「人生の余韻」をじんわり味わいたい人
『夜想曲集』はイシグロが短編集で初挑戦した“音楽と夜の物語”であり、その静謐な調べと淡い哀愁は長編とは違う魅力を放つ。
未完の人生に託された後悔や希望、軽妙な喜劇と重層する寓意が見事に響き合う構成は、短篇ながら深い読後感をもたらす。とはいえキャラクター描写やストーリー展開に淡泊さを感じる向きもあるだろう。しかし、イシグロらしい“余韻”をあえて問いかけるこの作品は音楽と生活、失望と快感のあわいを感じたい読者にこそ響く。
夜の静けさと旋律を堪能したい人はぜひこの短編集へ耳を傾けるがよい。

音楽と夜が織りなす“未完の調べ”は人生の断片を優しく照らすのじゃ。