
ちわわ、ちわ~!おいさんだよ!
キミはハードボイルドに行きているかい?
最近の小説って、何読んでもスカスカじゃね? 心にズシンと来るやつがねーんだよ


ふむ、おぬしにはまだ“十字路”が見えとらんようじゃの。
はぁ? なんだ交差点の話か?


いやいや、北方謙三の短編集『十字路が見える』の話じゃ。決断と覚悟の物語が詰まっておるのじゃよ。
また北方謙三か⋯

\ ココがポイント!/

『十字路が見える』は、北方謙三が長年培ってきた「男の美学」を短編形式で凝縮した珠玉の作品集なのじゃ!!
各話は人生における決断の瞬間=「十字路」をテーマに構成されており、それぞれの登場人物が、躊躇いと苦悩の末に何を選ぶかを描いている。暴力、愛、友情、仕事――題材は多岐にわたるが、根底にあるのは「どう生きるか」という問いである。北方作品に通底する、甘さのない筆致、情熱的な価値観、そして言葉の選び抜かれた硬質さは健在であり、読む者の胸に強く訴えかけてくる。これは単なるハードボイルドではなく、「男の哲学書」である。若者にも、かつて若者だった者にも届く普遍性を持った一冊であり、生きる覚悟を問われたい読者にとっては、まさに必読といえるだろう
十字路が見える
北方謙三の大ファンである。
……なんて北方謙三風に文章を始めてしまうくらい、わしは北方謙三が好きでたくさんの本を読んできた。
三国志、水滸伝、楊家将、楊令伝、岳飛伝……
このブログでもそんな北方文学をたくさん取り上げてきたが、気がついてみればエッセイ集は始めてである。
北方謙三のエッセイといえば「試みの地平線 伝説復活編 (講談社文庫)」などが有名で、中でも「ソープランドへ行け!」という名言は知る人ぞ知る北方謙三語録と呼ばれ、多くの人の知る所であるw
そんなわしも過去に「試みの地平線」は続編も合わせて二冊しっかり読んでいる。
しかしあの本は読者からの質問に北方謙三が応えるという形式になっていたが、今回紹介する本はエッセイの中でも北方謙三の独白というかたちで、あの独特の文体で北方氏自身について語った自伝的エッセイである。
北方謙三自らを語る
君よ。と語りかけるように始まる文章を読んでいくと、それまでわしが抱いていた北方謙三に対するイメージがだいぶ違う、ということをまず第一印象として感じられた。
わしは北方謙三といったらもっと車と酒と女が好きで、あとはヘミングウェイみたいな暮らしをしているカッコイイおっさんというイメージだったのだが、この中の北方氏は以外にもiPhoneなどスマホを使いこなし(イメージにないw)やたらカレーが好きで(意外w)ロックのコンサートなどにも出かけるアクティブな面を我々に見せてくれる。
その文章の男臭くも、時に無鉄砲でおもしろい北方謙三氏の行動の数々が読んでいてまず飽きない。
特に真夜中に居合の練習をしていて(これはある意味イメージどおり)肩の健を切ってしまったりする光景にはどこかお茶目で憎めない謙三氏のキャラクターが垣間見える。
中盤の音楽や映画の話などは、謙三氏が観てきた映画はひとクセあって、どれもわしは観たことがないのだが、思わず観てみたい!感じてみたいというような、映画論、音楽論、旅の話、男の料理などについての自らの美意識が満載なのである。
わしはこの本を読む前からプライベートでうまくいかないことがあって落ち込んでいた日々が続いていたのだが、夜中に1人で謙三氏の文章を読んでいると、暖かい言葉で自分に語りかけてくるような文章に出会い、尚且つ読み進めていると必ずクスっとしてしまうおもしろい体験がその先に待っていて、孤独な自分を大人なオヤジがなんとなく慰めてくれる。そんな気持ちにさせてもらった。
もちろん、そんなものはわしの一方的な勘違いかもしれないが、人の痛みも哀しみも知り抜いてきた北方氏の文章は、読んでいる者の心を揺さぶり、大きく暖かな背中で見守っていてもらっているような気持ちにさせられる。
病気の半生を語った結核の話や、後半の小説家になる前の自身について語った「薔薇と金魚」などは読んでいて北方謙三にも多くの苦悩、十字路に立たされていた時期があったのだ、深く胸に突き刺さるような思いがした。
北方謙三の書く文章が、なぜあれほどハードボイルドでありながらも独特の優しさのようなものを抱えているのか……その大きな男の背中をこの自伝的エッセイで垣間見えたような気がした。
良いところ
あらすじ
本書『十字路が見える』は北方謙三による短編小説集である。
各話は異なる主人公を据え、彼らが人生の「選択」を迫られる瞬間を描いている。ある者は旧友との再会で過去と向き合い、ある者は仕事か家庭かの間で揺れ動く。また裏社会の中でしか生きられない者や、かつての栄光に囚われた中年の男も登場する。それぞれの物語には、決して正解など存在しない。だが、登場人物たちは迷いながらも、覚悟を決め、自らの足で「十字路」を渡っていくのだ。どの物語も極限まで削ぎ落とされた文章で綴られており、過度な説明はない。それがかえって読者の想像力を刺激し、行間に滲む感情や重みを際立たせる。
本作は男たちの苦悩と選択、その果てにある静かな決意を描ききった、重厚な文学作品である。
では以下に良いところを挙げていこう!
文章の硬質さと簡潔さが生む緊張感
北方謙三の文体は常に“削る”ことに意識的である。
無駄な修飾を排し、地の文も会話も極めて簡潔。これが各短編にピリピリとした緊張感を与え、読者に“甘え”を許さない構造を作り出している。余白が多いからこそ、読者は行間を読むことを強いられる。そこに生まれるのは物語の密度の高さと、決断の瞬間における圧倒的なリアリティだ。
多様な人生の「交差点」を描いた構成力
全体を通して「十字路=選択の瞬間」がテーマであるが、そのシチュエーションが非常に多様である点も本作の強みだ。
犯罪、恋愛、家庭、友情、仕事と、読者の年齢や性別を問わず共感できる場面が必ずある。それぞれの物語にリアリティがあるのは、北方自身が見てきた“男の現場”が背景にあるからだろう。短編集でありながら、一冊を通じて通底するテーマがあり、統一感がある。
男臭さの中にある繊細な感情表現
北方作品といえば「男らしさ」「暴力性」などが先行するが、本作ではむしろ登場人物の揺れる感情や過去への執着といった“繊細さ”が際立っている。男たちは決して強いだけではない。迷い、臆し、後悔もしながら、それでも前へ進む姿に人間臭さがにじむ。そこにこそ北方謙三の真骨頂があり、読後に深い余韻を残す。
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悪いところ
では以下に悪いところ挙げていこう。
若年層には敷居が高い可能性
物語のテーマや描写が中年以降の男性に寄っており20代以下の読者には感情移入が難しい部分もあるだろう。恋愛やキャリアにおける選択が題材であっても、どこか“昭和的価値観”が残っており、現代的ではない。
女性の描き方に古さを感じる
北方作品全般に言えることだが女性キャラクターがあくまで“男の物語の中の存在”として機能している印象が強い。独立した人間としての女性像が希薄で、フェミニズム的観点からは評価が割れる可能性がある。
説明不足に感じる読者も
意図的な余白であるとはいえ背景や心情描写を最低限に留めているため、物語の意味が掴みにくいと感じる読者もいるだろう。特にライトな読書層や読解力に自信のない人には、読後感が「よくわからなかった」で終わってしまう恐れがある。
そこらへんは好みだろうけど、気にならないヤツは気にならないだろうな。

まとめ
こんな人におすすめ!
- 人生の分岐点に立っていると感じている人
- ハードボイルド文学の真髄に触れたい人
- 無駄を削ぎ落とした“行間の文学”を味わいたい人
『十字路が見える』は北方謙三が描く“決断の物語”の集大成とも言える短編集である。
どの物語も男たちが人生の重大な選択を迫られる場面を描いており、そこには覚悟、後悔、未練といった複雑な感情が交差している。余白を活かした硬質な文体、濃密なテーマ設定、そして行間に滲む哲学性は、読者に深い読後感をもたらす。若干の時代的ズレや読みにくさを感じる部分もあるが、それ以上に、人生を真剣に生きたい読者にとっては心に残る一冊となるだろう。

覚悟とは他人に見せるものではなく、自らの魂に誓うものなのじゃ──まさにそれを教えてくれる一冊なのじゃ。