
ちわわ、ちわ~!おいさんだよ!
キミはアメリカ文学の古典を知っているかい?
古典ってさ、なんか難しそうで眠くなりそうなんだよな


む、愚か者ぉ!古典は“今”を知るのじゃ
いやでも、文体古いし、展開遅いし、マジでハマれねぇんだわ。


それを楽しむのが古典なのに⋯⋯
ならこの『アメリカン・マスターピース(古典篇)』を手に取るのじゃ。訳も現代的で選りすぐりの名作ばかりだぞ!
ふ~ん、オレでも読めるもんかね?

\ ココがポイント!/

『アメリカン・マスターピース』は、アメリカ文学の黎明から20世紀初頭までの代表的短編を精選し、日本語訳で読者に届ける極めて完成度の高いアンソロジーなのじゃ!!
収録作にはナサニエル・ホーソーン、ハーマン・メルヴィル、エドガー・アラン・ポー、ヘンリー・ジェイムズ、マーク・トウェインら文豪たちの名作が並び、アメリカという国の精神の変遷が物語を通じて浮かび上がる。特筆すべきは、翻訳の質と、編者による精緻な作品選定である。読みやすく、現代人にも伝わる訳文でありながら、原作の骨格を損なわない。単なる文学資料集ではなく、“今読む意義”を感じさせる読み物として完成している。
古典への敬意と同時に読者への橋渡しとしての役割を果たす希少な一冊といえるだろう。
アメリカン・マスターピース
海外小説を読むのが好きで、今年はよくその手を本を読み漁っている。
そうすると、お気に入りの翻訳者というものが自然と出来上がるものだが、わしにとっては柴田元幸氏がその1人だ。
前回紹介したとおり柴田元幸氏は村上春樹氏と以前はタッグを組むほど、頻繁に翻訳した海外小説を出されている方で、「この人の訳した本は何を読んでもおもしろい!」高橋源一郎も太鼓判を押すほどの日本を代表する翻訳者である。
そして今回の二冊は、どれを読みすすめても感慨深い作品が多かった。
というのも本書で紹介されている短編はどれも有名な作家の有名なお話ばかり。
エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」とか、O・ヘンリーの「賢者の贈り物」とか、ジャック・ロンドンの「火を熾す」とか……知る人ぞ知る名作短編をぎゅぎゅっと詰め込んだ豪華アメリカ文学の結晶である。
ポーもO・ヘンリーも共に以前、光文社から出ている新訳の方を手に入れて先に物語に触れていたが、今回改めて読み返してみるとその訳仕方というか、文章そのものが持つ迫力にただただ圧倒された。
そうか、柴田さんが訳すとこんなふうになるのか、とポーの緻密で猟奇的で謎めいた雰囲気に身も毛もよだつような思いで物語を読み進め、名作「賢者の贈り物」は頭の中で昔道徳の教科書に載っていた子供向けの文章と比較しながら改めてO・ヘンリーの原文に近い翻訳を味わった。
個人的にはこの他にハーマン・メルヴィルの「書写人バートルビー」とか(そうしない方が好ましいのです)、落ちぶれた貴婦人と紳士が登場するヘンリー・ジェイムズの「本物」などが非常に摩訶不思議で、でもなんとはなしに実際にそこにこういった奇妙な人々が息づいていそうな空気感が、さすが文豪たちの往年の名作ぞろいだからである、とうなずける。
どれもこれも読んでいて一曲も二癖もあり現代文学に勝るとも劣らない秀逸な作品ばかり。
外国文学好きにはたまらない一冊となっている。
ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース
続いてこちらはイギリスの名作短編を寄せ集めた「ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース」
「ブリティッシュ」はもちろん英国のことで、「アイリッシュ」はアイルランドのことである。
本書はこの2つの国からそれぞれ有名な作家の短編小説を収録している。
……って、ウェールズやスコットランドはないんかいw
こちらの本は一作の短編が「アメリカン〜」に比べて短めで、そのおかげで 「アメリカン〜」よりも収録されている作家の数も多く、わし個人としては奇妙な男を目撃したおかげで不運に見舞われる信号手の運命を描いた傑作、C・ディケンズ「信号手」とか、どんな願いも叶えてしまう呪いの物語W・W・ジェイコブズ「猿の手」などが読んでいて涙が出そうなくらい怖かったw
なかなか陰鬱なエピソード満載の本書だが、中には有名な黄金の象の王子とツバメの交流を描いたオスカー・ワイルドの「幸せな王子」なども収録されているので一概に怖い話を集めました、というわけではない。
中にはジョゼフ・コンラッドの「秘密の共有者」のように手に汗握る二人の男の奇妙な交流を描いた海洋小説(?)もあったりで、本書の中ではこれが一番のお気に入りであるw
こんな素晴らしい小説の数々を集めた傑作選「マスターピース」
どちらから読んでも損はしない。素晴らしいアンソロジーである。
良いところ
あらすじ
本書は19世紀から20世紀初頭にかけてのアメリカ短編文学の精髄を収めたアンソロジーである。
文学史上の巨人たちが手がけた短編が12〜15編(版により異なる)収録されており、ホーソーンの道徳的寓話、ポーの怪奇幻想、メルヴィルの不条理、トウェインのユーモア、ジェイムズの心理描写など、多様な文学的アプローチが一冊に凝縮されている。どの作品も短編でありながら思想や美意識が色濃く反映されており、短くも重厚な読後感が残る。また、各作品には編者による簡潔な解説が付されており、時代背景や作家の位置づけを把握しやすい。
文学史の教材としても純粋な読書体験としても価値がある内容であり、読者の知的好奇心を深く満たしてくれる。
では以下に良いところを挙げていこう!
アメリカ文学の基礎教養が一冊で得られる
本書はアメリカ文学における必読短編を網羅しており、大学の講義で取り上げられるような名作ばかりである。これを通読することで、文学的教養のみならず、アメリカという国の文化的バックボーン、価値観の変遷が自然と理解できる構成になっている。文学を通じて「国家」を見る視点が得られるのは大きな利点である。
翻訳の質が高く、原文のリズムを保っている
古典作品においてしばしば問題となるのが“訳の古臭さ”であるが本書の翻訳は現代的で滑らか。
それでいてオリジナルの文体リズムや比喩の構造を損なっていない。読み手のテンポを保ちつつ、作品世界に没入させる工夫が感じられる。翻訳文学にありがちな“読みにくさ”が大幅に軽減されており、原作を読んだ経験がある読者でも満足できる水準である。
編者のセンスが光る作品選定と解説
収録作品はいずれも「ただ有名だから」選ばれたものではなく、文学的完成度、時代背景、ジャンル性のバランスを考慮して精選されている。結果、短編集でありながら一貫性のある読後感が得られる構成になっている。また各作品の冒頭や末尾に置かれた編者解説は簡潔ながら的確で、作品への理解を深める上で非常に役立つ。
文学に詳しくない読者にも配慮したつくりとなっている。
気になった方はこちらからどうぞ
悪いところ
では以下に悪いところ挙げていこう。
全体として文体が堅く感じる場面がある
翻訳の質は高いものの、やはり古典ならではの論理構造や言い回しは残っており、読み慣れていない層には取っつきにくさを感じさせる可能性がある。文学的素養のない読者には、読破が困難となる場面もあるだろう。
物語性よりもテーマ性が重視されている
どの短編も物語よりも“思想”や“構造”が重視されており、純粋な娯楽性を求める読者には退屈に映るかもしれない。読者に“読む力”を求めるスタンスは、間口の広さには欠ける。
女性作家の作品が少ない
本書は時代性を重視しているためか、女性作家の収録数が極めて少ない。結果、視点がやや偏っており、多様性に欠ける印象を持つ読者もいるだろう。編者の方針とはいえ、現代的な視点からはやや惜しい構成である。
そこらへんは好みだろうけど、気にならないヤツは気にならないだろうな。

まとめ
こんな人におすすめ!
- アメリカ文学の基礎を効率的に学びたい人
- 文学の“行間”を読み解く読書体験を求める人
- 良質な翻訳短編を通じて教養を深めたい人
『アメリカン・マスターピース(古典篇)』は文学の本質に迫るための入口として最適な一冊である。
収録作品はいずれも時代を超えて読み継がれる価値を持ち、アメリカ文学という巨大な森を歩くための羅針盤となる。訳文の質、作品選定、解説のいずれも高水準であり、初心者にも玄人にも対応できる構成である。古典に苦手意識がある読者にも試してほしい、知性と感性を刺激するアンソロジーといえるだろう!

古典を読まずして、物語の深みを語るなかれ──この一冊こそ、読む者の魂を耕す種なのじゃ。