
ちわわ、ちわ~!おいさんだよ!
キミは
江戸時代ってさ、封建で野蛮なイメージあるよな
だろ。


てやんでえ!
それはまったくの誤解なのじゃ!
てやんでえって⋯⋯
でも、昔の暮らしって不潔で不便で危険な暮らしが身近にあって⋯というイメージは事実だろ?


そういう面もあったかもしれんのじゃが、心は満ち足りておったのじゃ
まさか、今より幸せだったとか言うんじゃねえだろうな?

\ ココがポイント!/

『逝きし世の面影』は、江戸末期から明治維新に至る激動の時代を、訪日した外国人の手記や記録をもとに再構成し、「失われた日本人の精神性と暮らし」を描き出す文明批判の傑作なのじゃ!!
本書の最大の衝撃は、江戸時代がいかに豊かで自由で、庶民が人間らしい生を送っていたかという点にある。近代化とは何だったのか、本当に人々を幸福にしたのか──その問いが、全編を通して突きつけられる。日本人が日本を見失った今こそ読むべき1冊であり、近代の価値観を根本から揺さぶる思想書でもある。政治思想でも文化論でもなく、“生きるとは何か”という根源を静かに問うこの本は、歴史を通じて現代を照らす鏡であり、読み終えた者の目に映る日本の姿を一変させる力を持っている。
逝きし世の面影
だいぶ分厚い本である。
そして読み解くのにだいぶ時間がかかった。ここまで手こずったのは久しぶりである。
「逝きし世の面影」は明治時代の日本を訪れた外国人が、当時の日本の様子を綴った証言を集めた本である。
これを読むと外国人がどのような目線で日本を見ていたかがよく分かる。
現代のわしらがこうした外国人の証言を読んでいくのは非常に興味深い。
そして驚くことに多くの外国人たちが日本の自然がいかに美しい国かに言及している点が印象深かった。
日本は「妖精の国」
驚くべきことに、当時の外国人は幕末・明治の日本は西洋文明とは全然違う「妖精の国」という表現を頻繁に使って、当時の日本を母国に紹介している。
妖精の国というのがなんとも少し「オリエンタリズム」な感じがしなくもないけど、日本で暮らす人々の礼儀正しさや正直さ、優しさなどをほとんど絶賛という形で褒めそやしている。例えば、当時の外国人が驚嘆した日本人の礼節の部分に、部屋にカギがかからないのに誰も家のモノを盗まない、とか。少し遠出に出かける際に渡したお金と時計が、宿を出た時とそのままで主人のお盆の上に乗っていたとか、日本の治安の良さや日本人の正直さを当時の外国人はこの国は信じられないなどと述べている。
わしらが歴史の授業で習ってきた江戸時代の話では、当時の封建的な社会は人々の自由を奪って過酷な税の取り立てをしていたとか悪い方にばかり教わってきた。
しかし、この本を読むとそうした時代は全くウソで、当時の人間は本当に暮らしやすい日本を生きていたんだなということがよくわかる。
そうした証言が山というほどこの分厚い本に出てくるのである。ちょっと「オリエンタリズム」が度をすぎる感じがしないでもないが、そうした疑いを差し引いたとして当時の日本人たちの倫理観は西洋の世界に比べると驚くべき高水準にあったようだ。
江戸時代までの日本人は自然とこうした他社への信頼(トラスト)を作り上げていたのである。
こうした遺産はわしらは死者たちから知らずに受け継いでいるのだ。
これは世界的にみて稀有なことだろう。
そうした礼儀正しい日本人の振る舞いを見て当時の外国人が驚いていたのもうなずける。
明治維新を迎える前の日本は非常に道徳も行き届き、素晴らしい人と人の関わり方が随所にあったのだろう。羨ましい限りである。
今も変わらない日本の良さとは?
最近はTVなどでやたら日本を褒めまくる番組が目につく。
だがそうした番組の多くが東日本大震災以降、地震を失ってしまった日本人が自分の自身のなさを埋め合わせるためにナショナリズムを喚起するために求めているのではないか。
それはある種の自己憐憫的で、そうした番組をみることによって「日本スゲー!」と愛国心を煽り、昨今のどうしようもない日本の現実から目をそむけている気がする。
それに比べれば本書に描かれた昔の外国人の目線を知るほうが、よっぽど日本人の美徳を理解できるように思う。
外国人曰くわしらほど人の目を気にする種族はいないみたいだ。
あまりにも自意識過剰で無理して外国人に良いように見られたがっている今の日本人たちを、幕末の日本人が見たらなんと思うだろう?
なんとも気持ちの悪い付和雷同気味の近代日本人に眉をひそめるかもしれない。
良いところ
あらすじ
『逝きし世の面影』は評論家・渡辺京二が1987年に発表した歴史文明論である。
内容は主に幕末に来日した西洋人の記録をもとに、当時の日本の社会、文化、宗教観、道徳、経済、そして庶民の暮らしぶりを浮き彫りにしていく構成となっている。多くの外国人が記したのは、「日本人は貧しいが明るく、礼儀正しく、そして驚くほど幸福そうだ」という印象だった。その「幸福」は貨幣経済や近代的価値観とは異なるものであり、自然と共存し、身の丈に合った暮らしを尊ぶ精神性から生まれていた。明治維新によって西洋化・近代化が急激に進んだ日本は、かつての穏やかで自由な文化を喪失してしまう。
著者はこの「喪失」にこそ、現代の日本が抱える不安や空虚の原点があると指摘する。
では以下に良いところを挙げていこう!
視点の独自性と文明批判の深さ
渡辺京二の筆致は、単なる懐古ではない。
欧米の近代文明を無批判に受け入れた日本の歴史に対して、冷静かつ痛烈な問いを投げかけている。江戸期を「過去の遺物」ではなく、「もう一つの可能性」として提示する視点は他に類を見ない。物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさを重んじる思想が一貫しており、現代の「便利だけど不安な社会」への対照軸として本書が存在する意味は極めて大きい。
実証性と資料の豊富さ
本書の根幹を支えているのは数多くの訪日外国人の観察記録である。
主観に溺れず、具体的な記述を積み重ねて江戸社会の空気を再構成している点が非常に信頼できる。日記、手紙、報告書といった多様な資料を精査し、異なる立場の証言を比較しながら描かれる江戸日本は、読者に対して「これが作り話ではない」という説得力を与える。
美しい文体と静かな情熱
評論書でありながら渡辺の文体には詩的な美しさがある。
「怒り」や「絶望」ではなく、「喪失への静かな嘆き」として綴られる語りは、読者の感情に深く浸透する。また、特定の政治思想やイデオロギーに染まることなく、誠実に事実と向き合う姿勢が全編に貫かれており、思想書としても極めて誠実である。読み終えたとき心に残るのは論理ではなく、ひとつの“情景”である。
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悪いところ
では以下に悪いところ挙げていこう。
近代文明の功績に対する評価がやや乏しい
本書は江戸時代の良さにフォーカスするあまり近代化によって得られた利点──医療、衛生、教育、交通などの発展に対する評価が薄い。そのため、読者によっては極端な文明否定に映る可能性もある。
読解に時間を要する構成
豊富な資料と緻密な分析は本書の魅力だが逆に言えば一気読みするにはかなりの集中力を要する。構成が緩やかであるため、現代的な読みやすさやストーリードリブンな展開を求める読者にはやや退屈に感じられるだろう。
若年層には共感しにくい世界観
「江戸的なるもの」に価値を見出す本書の思想は現代のデジタルネイティブ世代にはなじみにくい部分もある。「便利よりも不便を尊ぶ」という逆説的な価値観は、直感的には理解されにくい可能性がある。
そこらへんは好みだろうけど、気にならないヤツは気にならないだろうな。

まとめ
こんな人におすすめ!
- 近代社会や資本主義に違和感を覚えている人
- 歴史を現代の鏡として読み解きたい人
- 江戸文化・文明批判・思想書に興味がある人
『逝きし世の面影』は、日本人が忘れてしまった「もう一つの幸福のかたち」を記録した思想の書である。江戸時代の庶民文化、道徳観、自然との共生、そして心の豊かさ──それらは現代社会ではすでに喪われてしまったが、確かに存在していたと本書は証明する。豊かさとは何か、自由とは何か、進歩とは本当に幸福をもたらすのか──そうした根源的な問いを静かに投げかけてくる。現代という時代を批判的に見つめ直すための指針となる一冊である。

この本はただの昔語りではない。逝きし世の風が、今を生きる我らに語りかけておるのじゃよ。
忘れてはならぬ記憶がここにあるのじゃ。